モーくん

めざせ成仏

ドルコスト平均法の効果検証(モンテカルロ法)

要点

ドルコスト平均法は忘れていいよ、ということをモンテカルロシミュレーションをしながら確認していきます。

 

目次

 

1. ドルコスト平均法の論点

投資、特に個人の資産運用の話題になると、ドルコスト平均法を推奨する人と、ドルコスト平均法には効果がない、という人に大きく分かれる。

 

ここでドルコスト平均法とは、一度に多くの金額を一括投資するのではなく、例えば毎月の積立投資のように時間をかけて少額を何度も投資することで、投資の時間分散によるリスクの低減効果を狙う投資法のことだ。

 

(追記:時間分散において固定口数にするか固定金額にするか、という論点について指摘をいただいたので、6節にその視点での検証を追加している)

 

ドルコスト平均法に効果があるかないか、という論点は、このリスクの低減効果が実在するのかどうか、と言い換えることができる。

 

なお、リスクの低減効果とは別の理由で積立投資を選択する場合もある。例えば毎月決まった給与をもらうサラリーマンが、その手取りの中から投資資金を捻出する場合、給料日に合わせて毎月積立投資をすることは(仮にリスクの低減効果が幻であったとしても)依然として合理的だ。

 

だから、ドルコスト平均法の効果を否定することは、積立投資を否定することではない。単に、積立投資を選択する理由としてドルコスト平均法を根拠にすることはできない、時間分散によるリスク低減効果は存在しない、ということを示すだけである。

 

2. ドルコスト平均法に効果がない理由

ドルコスト平均法にリスク低減効果はない、という主張の論拠は明白だ。いまあなたの口座に100万円分のリスク資産残高があるなら、それが昨日一括で投資した100万円であれ、何年もかけてこつこつ積み立てた100万円であれ、「現時点で100万円をリスクにさらしている」という事実は全く変わらないからだ。

 

この論点については投資評論家の山崎元さんの説明が詳しい。

 

media.rakuten-sec.net

 

しかし一方で、投資タイミングを時間分散すれば取得単価を平均化できて結果的にリスクが低減する、という説明は直感に訴えかけるので、依然としてドルコスト平均法は人気のある考え方である。

 

3. ドルコスト平均法モンテカルロシミュレーション

そこでExcelを使って実際にシミュレーション比較をしてみる。

 

 

まずは、想定する平均リターンとリスク(標準偏差)を決める。あくまで一括投資と積立投資の相対比較であるので具体的なリスク・リターンは何でもよいといえばよいが、ここでは、myINDEX(https://myindex.jp/)というサイトの「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス (ACWI) (円)」30年平均年率のリスク・リターンを使わせていただいた。

 

https://myindex.jp/data_i.php?q=MS1025JPY

f:id:calfscalf:20200826171600p:plain

MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス (ACWI) (円) - myINDEX

 

毎月積立でシミュレーションするので、年率のリスクリターンを月あたりに換算する必要がある。月あたりリターンは年率リターンの12乗根(Excelでは「POWER(年率リターン,1/12)」)、月あたりリスクは年率リスクに√12の逆数をかける(「年率リスク*SQRT(1/12)」)ことでそれぞれ計算できる。こんな感じだ。

 

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想定リスク・リターン

 

(次節以降、Excelを使ってシミュレーションしつつ、考え方と実際の数式も掲載しておくので、間違いなどあったら指摘いただけると助かります。)

 

3.1. 毎月積立のシミュレーション

毎月積立のシナリオとして、毎月決まった額を積み立て投資するものとして、この金額を「1」とおく。「1」は具体的には1000円でも1万円でも10万円でもよい。月初に「1」を投資し、1ヶ月のあいだ上述の月間リスク・リターンに沿って運用し、次月の月初に「1」を追加投資する。

 

Excel上で表現するとこんな感じになる。

 

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毎月積立の運用シナリオ

 

1ヶ月目に「1」を投資し、これを上記の「月次リターン1.0051(月利0.51%)」「月次リスク0.0517(5.17%)」の条件で運用した結果、「0.99」という結果になった。想定リターンがプラスであるにもかかわらずちょっと損しているが、これはリスクがあるため今回はたまたまこういう結果になったということだ。

 

2ヶ月目はこの「0.99」に「1」を追加投資した合計「1.99」を同条件で運用し、たまたま「1.97」という結果を得た。同様に3ヶ月目、4ヶ月目と積立投資を続けていき、4ヶ月目に「4.02」となって総投資額の「4」を超えてプラスリターンとなった。

 

各月の運用をExcelの式で表すと「(前月残高+1)*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。NORM.INV()関数を使って、月次リターンを平均、月次リスクを標準偏差とする正規分布乱数を生成し、それを前月残高+1(+1は今月の追加投資分)に掛けることでその月の運用結果としている。正規分布は市場リスクの正確な近似とは言えないが、今回は積立投資と一括投資の相対比較という目的に鑑み簡単化のために正規分布を使った。

 

この積立運用を240ヶ月(20年間)続けた結果例がこちら。

 

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240ヶ月(20年間)運用結果例

 

240ヶ月かけて合計「240」を投資して、「1009.32」のリターンを得た。総リターンは4.21倍(+321%)であった。

 

このリターンは今回の乱数におけるたまたまの結果であるので、平均的なリターンやリスク(リターンの標準偏差)を求めるためには、試行回数を増やす必要がある。

 

こんな感じだ。

 

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240ヶ月運用を複数回試行

 

余談だが、上の表の通り、240ヶ月(20年間)の積立運用でも総リターンが1.0未満(すなわちマイナスリターン)になることはそこそこある。「投資は余裕資金で」という標語はダテではない。たとえ長期積立投資であっても、将来必要となることがわかっている資金を投資にぶち込むのはまったく推奨できない。が、この話は今回の目的と関係ないし、今回はあくまで正規分布で簡単化したシミュレーションであるので、この話題は深入りしないことにする。

 

本題に戻って、上記の方法で試行回数を10000回まで増やしたときの結果がこちらだ。

 

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毎月積立の結果(試行回数10000回)

 

総リターン平均の1.96が今回のシミュレーションにおける平均リターン、総リターン標準偏差1.17がリスクということになる(標準偏差はSTDEV.P()関数を使って求めている)。

 

また参考までに、上の表では下位何パーセンタイルでどのくらいのリターン値になるかについても求めてあるが、今回の話の目的とは直接関係ないのでいったん無視してよい。

 

ちなみになぜ10000回かと言うと、1000回では結果が安定せず再計算のたびに結果にブレが出てしまい、10000回ならおおむね総リターン平均が±0.02くらいのブレに収まっているように見えた、という割とざっくりした決め方である。

 

なお、この240ヶ月×10000回の計算でもExcelのファイルサイズが50MB近くになってしまったので、これ以上の試行回数を求めるのであれば、Excel以外の統計ツールやプログラム言語などを使った方がいいかも知れない。Excelは計算のステップごとにセルを分けて計算の途中経過を確認したり、その途中経過に対して検算をしたりすることが容易なので好きなのだが、限度というものがあるようだ。

 

3.2. 各年初に一括投資のパターン

さて比較の準備が整ったので、次に毎年年初に一年分「12」の投資を一括で行うパターンを考える。

 

各セルの数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=1,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。毎月積立と変わった部分は赤字のところで、経過月を12で割った余りが1(つまり各年の初月)の場合に一括で「12」を投資し、それ以外の月は追加投資しないという想定だ。

 

シミュレーションの様子がこちら。経過月が1、13、と、12ヶ月おきに投資額が一気に「12」ずつ増えている。

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年初一括投資パターンのシミュレーション

 

シミュレーション結果がこちら。

 

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年初一括投資の結果(試行回数10000回)


リスク(標準偏差)が1.21になっており、毎月積立のリスク1.17よりも高い。やはりドルコスト平均法にはリスク低減効果が…?と思ってしまいそうだが、これは年初に一括投資することで年間の平均運用残高が高くなった結果であり、その証拠に平均リターンも毎月積立の1.96から2.01に上がっている。

 

この理屈は年末一括投資というパターンを考えてみればわかりやすいので、次節で確かめる。

 

3.3. 各年末に一括投資のパターン

同じ一括投資でも年初ではなく年末にまとめて投資すれば、年間の平均運用残高は毎月積立よりも少なくなる。だから前節で見られたリスク低減効果が単に平均運用残高の違いによるものであれば、年末一括投資は毎月積立よりも低リスク・低リターンになるはずである。一方、前節のリスク低減効果がドルコスト平均法による時間分散由来であったとすれば、年末一括投資であっても一括投資である以上は毎月積立より高リスクになるはずだ。

 

年末一括投資の数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=0,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」とする。12で割った余りが0、つまり毎年の最終月に一括投資するのが前節との違いだ。

 

シミュレーションの様子がこちら。

 

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年末一括投資パターンのシミュレーション

 

最初の11ヶ月の運用残高が「0」なのでギョッとしてしまうが、ちゃんと12ヶ月ごとに「12」ずつ投資しているので安心して欲しい。

 

シミュレーション結果がこちら。

 

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年末一括投資の結果(試行回数10000回)

 

トータルリターンは1.91(毎月積立1.96)、リスクは1.08(毎月積立1.17)となり、予想通り、毎月積立よりも低リスク・低リターンとなった。つまり、毎月積立であれ一括投資であれ、投資を先送りにして平均運用残高を減らせばその分リスクを(ついでにリターンも)減らすことができるが、それはドルコスト平均法が言うような時間分散効果とは関係ない、ということがわかる。

 

3.4. 6月に一括投資のパターン

前節までの結果で、ドルコスト平均法によるリスク低減効果はないことが示せたと思うが、ダメ押しとして6月に一括投資するパターンも試してみる。年初でも年末でもなく6月に一括投資すれば、年間の平均運用残高が毎月積立と近い値になるためだ。

 

6月一括投資の数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=6,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」とする。

 

シミュレーションの様子がこちら。

 

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6月一括投資パターンのシミュレーション

 

シミュレーション結果がこちら。

 

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6月一括投資の結果(試行回数10000回)

トータルリターンは1.96(毎月積立1.96)、リスクは1.16(毎月積立1.17)となり、予想通り、毎月積立とほぼ同水準となった。ちなみに各パーセンタイル値もほぼ同水準だ。

 

3.5. 20年分を一括投資するパターン

前節までは、1年分をまとめて投資するパターンを毎月積立のパターンと比較していた。ここであえて話を極端にして、20年分の投資「240」を一括で投資するパターンを確認する。

 

20年分一括投資の場合、全体の平均運用残高を毎月積立と一致させるために、投資タイミングをどこにするかを検討する必要がある。単純に240ヶ月の真ん中の120ヶ月目を選んでしまうと、途中の運用益の影響で平均運用残高が毎月積立と異なってしまう。何パターンか試したところ、108ヶ月目に20年分を一括投資、という想定であれば、全期間での平均運用残高が毎月積立のパターンとおおむね一致することがわかった。

 

いちおうExcelの数式で表すと「(前月残高+IF(MOD(経過月,240)=108,240,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。

 

シミュレーションの様子は割愛して(どうせ最初の107ヶ月はずっと運用残高ゼロなので)、結果だけ載せる。

 

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108ヶ月目に20年分一括投資の結果(試行回数10000回)

 

トータルリターンは1.97(毎月積立1.96)、リスクは1.28(毎月積立1.17)となった。平均運用残高を合わせただけあってトータルリターンはほぼ一致したが、リスクが……あれっ、明らかに高い

 

やっぱり、極端な例も試してみるのは大切である。

 

3.6. 10年分を一括投資するパターン

すこし極端さを緩和して、10年分の「120」を2回に分けて投資するパターンを考える。

 

先ほどと同様に、全期間の平均運用残高が毎月積立とおおむね一致するタイミングをさぐっていくと、57ヶ月目とそのちょうど10年後である177ヶ月目の2回にわけて「120」ずつ投資するのがよいということがわかった。

 

いちおうExcelの数式で表すと「(前月残高+IF(MOD(経過月,120)=57,120,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。

 

先ほど同様、シミュレーション結果だけを掲載する。

 

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57ヶ月目と177ヶ月目に10年分一括投資の結果(試行回数10000回)

 

トータルリターンは1.97(毎月積立1.96、20年一括1.97)、リスクは1.20(毎月積立1.17、20年一括1.28)となった。トータルリターンは引き続き一致、リスクについては20年分一括投資よりは明らかに小さいものの、毎月積立よりはやや大きい値になった。

 

4. ちょっと補足

20年分一括投資の例について補足すると、今回は毎月積立のケースと平均運用残高をそろえるために、107ヶ月までは一切投資せずに待ってから108ヶ月目に一括投資をする、という想定をした。

 

しかし一般的には、一括投資とは投資期間の最初に一括で投資することを指す。 投資期間の最初に一括で投資した場合、3.2節で見たとおり、平均運用残高が上がることでリスクとリターンの両方が高くなる。

 

つまり典型的な例においては、一括投資か毎月積立か、という問いは「平均運用残高を上げてより高いリターンをとるか、平均運用残高を下げてリターンを犠牲にする代わりにリスクも下げたいか」という問いと同義である。

 

20年分一括投資のような極端な例においてさえ、それが投資余力の範囲内なのであれば、最初に一括投資をすることで高い総リターンを狙うということは引き続き合理的な選択であり得る。

 

5. 結論

  • 毎月積立か、それとも一年分をまとめて投資か、というレベルの比較においては、平均運用残高が同じであればリスク・リターンもほぼ同じである。
  • よって、「夏ボーナスのうち30万円を投資に回そうと思うが、ドルコスト平均法で3万円ずつ10ヶ月に分けて投資したほうがよいのだろうか」というような悩みであれば、ドルコスト平均法は単なる機会損失であり、機会損失を上回るようなリスク低減効果は全くないので、30万円一括投資すればよい。
  • 毎月の給与から投資余力を捻出してるのであれば、(ドルコスト平均法とは全く無関係に)毎月積立が合理的な選択であり得る。でもボーナスが余った分は一括投資しよう。 
  • 20年分の投資資金を一気に投資する、というような極端な例であれば、数回程度の時間分散を行うことで、機会損失によるリターンの低下分以上にリスク低減効果を得ることはできそうだ。
  • しかし極端な例の場合であってさえ、あくまで投資余力の範囲内で投資を行っているのであれば、多少のリスク低減効果よりは機会損失を重視して一括投資を選択することが引き続き合理的であり得る。

 

総論として、ドルコスト平均法は忘れて良い。そんなことより、あなたの今の運用残高があなたの今の投資余力(リスク許容度)にマッチしているかどうかの方が重要だ。

 

(おまけ)

そういえば「ドルコスト平均法はリスクだけでなくリターンを改善する効果もある」という説もある(今回はリスクの話だったので完全に無視してしまっていた)。

 

その根拠は、株価が一度暴落し、その後元の株価に戻った場合(つまり株価チャートが凹の形になると)、一括投資であればプラスマイナスゼロだが、ドルコスト平均法で暴落中も投資していればトータルでプラスリターンになる、というものだ。

 

ドルコスト平均法にそのような特性があることは事実だが、逆に株価が一度騰がってその後元の株価に戻ると(つまり株価チャートが凸の形になると)、ドルコスト平均法はマイナスリターンになってしまう。

 

すなわち、チャートが凹になるか凸になるか丁半博打に勝てば儲かる、というだけの話であって、ドルコスト平均法に全体的なリターンを改善する効果がないことはこの記事の3.23.4節で見たとおりなので、この説も含めてドルコスト平均法は忘れて良い。

 

6. 追記(固定口数か固定金額か)

この記事を公開したあと、ツイッターで以下のような指摘をいただいた。

 

 

ドルコスト平均法とは本来、時間分散するときに毎回同じ口数を買うのではなく毎回同じ金額を購入するという手法で、すなわち時間分散するかしないかが問題なのではなく、時間分散は前提としてそれを固定口数にするか固定金額にするかという問題だ、という指摘である。

 

そして、固定口数だと平均購入単価は相加平均になるのに対し、固定金額だと平均購入単価は調和平均になり、ここで数学的に「相加平均≧調和平均」が証明されているので、固定金額方式であるドルコスト平均法が有利だ、ということのようだ。

 

たしかに、Wikipediaにもそのような説明が書いてある。(記事を書く前にWikipediaくらいは見ておくんだったと後悔した)

 

ja.wikipedia.org

 

そこで追加の検証として、固定口数で毎月積立を行ったケースと、固定金額(ドルコスト平均)で毎月積立を行ったケースを比較してみた。

 

6.1 固定口数積立方式

まずは固定口数での毎月積立をシミュレーションしてみる。

 

毎月の口数を「1」、1口あたりの単価の初期値も「1」として、それぞれの月の1口あたり単価の推移を表に表していく。

 

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固定口数のシミュレーション

 

それぞれの月に入っている数字(1.041.041.121.11…)は、各月の1口あたり単価である。Excelの数式で表すと「前月単価*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。前月の単価に、正規分布乱数によって求めた今月のリターンを掛けている。これを240ヶ月分並べると、1試行のシミュレーションが完成する。

 

購入数は、固定口数「1」を240ヶ月買うので必ず240になる。平均購入単価はAVERAGE()関数で各月の1口あたり単価を平均するだけである。リターンは、最終単価(240ヶ月目の1口あたり単価)を平均購入単価で割ったものだ。

 

これを10000回試行して集計した結果がこちら。

 

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固定口数のシミュレーション結果(試行回数10000回)

 

6.2 固定金額積立方式

次に、固定金額での毎月積立(ドルコスト平均法)をシミュレーションしてみる。

 

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固定金額でのシミュレーション


集計のしやすさを考え、各月の数字(1.011.030.981.04、…)には各月の購入口数を入れてある。Excelの数式では「1/ ( (1/前月の購入口数)*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク) )」となる。まず 「1/前月の購入口数」で前月の購入単価を求め、それに対しておなじみの正規分布乱数をかけて今月の購入単価を算出し、さらに今月の購入単価の逆数をとることで今月の購入口数を求めている。これを240ヶ月分並べてある。

 

ここで購入数は、各月の購入口数の総和で簡単に求まる。平均購入単価は「総購入額÷購入数」で求まるが、毎月固定金額「1」での積み立てであるので総購入額は240固定で、それを先ほど求めた購入数で割ればよい。リターンは前節同様、最終単価(240ヶ月目の単価)を平均購入単価で割ったものだ。なお前節とは異なり、各月のセルには単価ではなく購入口数が入っているので、逆数をとって購入口数から単価になおしておくことを忘れないようにする。

 

これを10000回試行して集計した結果がこちら。

 

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固定金額のシミュレーション結果(試行回数10000回)

 

平均購入単価が1.58(固定口数1.98)と大きく下がっており、それにより平均リターンも1.97(固定口数1.56)と大きく改善している。しかしそれにともなって標準偏差(リスク)が1.15(固定口数0.63)と大きく上がってしまっている。

 

6.3 固定口数vs固定金額の結論

「相加平均≧調和平均」という数学的事実が示す通り、同じ時間分散投資をするのであれば、固定金額方式(ドルコスト平均法)は固定口数方式よりもリターンが高いということがわかった。

 

しかし固定金額方式は固定口数方式よりも大幅にリスクが高く、決してリスク中立で純粋にリターンだけを改善できるというわけではない(フリーランチではない)という点に注意が必要である。

 

そもそも固定口数での毎月積立なんて酔狂なことをする人はあまりいないだろうが、「ドルコスト平均法は固定口数による積み立てよりも高リスク・高リターンの投資方法である(あるいは、固定口数方式は相対的に低リスク・低リターンである)」という事実は押さえておいてもよいだろう。

 

6.4 ほんとうにそうだろうか(追記の追記)

と前節までを考えたところで記事を更新したのだが、一度立ち止まって考えてみると、おかしな点に気がついた。

 

「相加平均≧調和平均」という数学的事実が示しているのは、値動きと購入タイミングが同じである限り、あらゆるケースで固定金額方式が固定口数方式のリターンを上回る、ということだ。なのに「フリーランチではない」なんてことがあり得るだろうか?

 

もう少し丁寧に検証するため、固定口数方式と固定金額方式の値動きを共通化してみる。つまり、それぞれ個別の乱数を用いるのではなく、固定口数方式のシナリオで計算した各月ごとの1口当たり単価をもとに、固定金額方式のシナリオにおける各月ごとの購入口数を計算するようにした。

 

さらに、総投資額を合わせるようにした。資産価格は時間の経過とともに平均的には上がるため、毎月かならず1口を購入する固定口数方式は、固定金額方式よりも総投資額が平均的に高くなるという違いがあった。

 

調整前の総投資額(平均)の差異がこちら。

 

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固定口数方式と固定金額方式の総投資額の差異

固定金額方式は、毎月「1」の金額を240ヶ月投資するので、総投資額は必ず240になる。固定口数方式は乱数によって総投資額が変わるが、10000回試行で平均すると468程度になっていた。

 

そこで総投資額を合わせるため、固定金額方式の1ヶ月あたりの投資額を「1」から「1.95」に増加させた。

 

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調整後の総投資額

 

固定金額方式の総投資額が468になった。数字を変えたので乱数が再計算されてしまい、関係のないセルも微妙に数字が変わっているが、気にしないで欲しい。

 

総投資額の水準をそろえたところで、実際にリターン比較をしてみる。

 

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固定口数方式と固定金額方式のリターン比較

 

固定口数方式と固定金額方式のそれぞれについてリターン(比率)と利益の絶対額を算出し、どちらが勝っているかを比較している。これまでの節ではすべて比率での比較であったが、上述の通り総投資額をそろえたことで、絶対額での比較も可能になっている。

 

なお検算のために記しておくと、利益の絶対額の計算方法は「購入口数*平均単価*(リターン-1)」となっている。

 

これを10000試行分計算し、シミュレーションの結果を確認する。

 

まずはリターンの比較である。Excelのオートフィルタ機能を使えば、10000試行のうち、固定口数有利となるようなケースが存在したのか簡単に見ることができる。

 

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リターンの比較

ない

 

「相加平均≧調和平均」の数学的事実が示す通り、値動きと購入タイミングが同じであれば、固定口数方式のリターンが固定金額方式(ドルコスト平均法)を上回ることは絶対にない。

 

では利益の絶対額はどうか。

 

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利益額の比較

 

あるじゃん

 

リターン(投資収益率)では100%かならず絶対例外なく固定金額方式が勝つのに、利益額で比べると固定口数が勝つケースがあるのだ。

 

どういうことか。オートフィルタを使ってそのまま該当する試行結果を見てみる。(オートフィルタは便利だ)

 

10000試行中、利益額で固定口数が勝ったケースは1727件ある。

 

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利益額で固定口数が勝ったケース数

 

代表して、最初の何件かを見てみる。

 

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利益額で固定口数が勝った具体的なケース(抜粋)

確かに、リターンでは固定金額が勝っているのに、利益額では固定口数が勝っている。また、例外はあるが、マイナスリターンのケースや、プラスリターンの場合は平均的なリターンを上回るようなケースが多く含まれていることも見て取れる。

 

考えてみると、資産価格が右肩下がりになっていくようなケースでは、固定口数方式は結果的に毎月の投資金額を下げていくことになるが、固定金額方式では決まった金額を突っ込んでいくので金額的な深手は大きくなるようだ。

 

また逆に、資産価格が右肩上がりになっていくケースでも、固定口数方式は結果的に毎月の投資金額が上がっていくので金額ベースでの利益も大きくなっていくが、固定金額方式では決まった金額しか投資しないためそのような効果は発生しない。

 

これらの特性が、金額ベースで固定口数方式が有利になるケースがある理由ではないだろうか。

 

6.5 追記の追記のまとめ

「相加平均≧調和平均」の数学的事実が示す通り、固定金額方式(ドルコスト平均法)の積立投資は、固定口数方式の積立方式と比べてリターン(総投資額に対する収益率)が悪くなることは絶対にない。

 

リターンの標準偏差(リスク)を比較すると、固定金額方式のほうが固定口数方式よりも大きい。固定金額方式は絶対にリターンで負けないのにリターンの標準偏差は高い、ということはつまりリターンの上振れが大きいということなので、この点はあまり気にする必要はないのではないか。

 

しかし、総投資額の水準が同程度になるように調整したうえで利益の絶対額を比較すると、固定口数方式が固定金額方式の結果を上回るケースが出てくる。つまり「ドルコスト平均法がリターン(収益率)では勝っているのに、実際の利益では負けている」というケースが存在する。この現象は1727/10000=17.3%程度の確率で起こる。