日本株のアクティブファンド買った
日本に帰ったら日本株のアクティブファンドを試してみたいと思っていたので、帰国して証券口座が開設できた2021年10月29日のタイミングで日本株の某アクティブファンドを買ってみた。というかひふみプラスなんですけど。
といっても、メインの投資対象はオールカントリーもしくは先進国株式(日本除く)のインデックスファンドというのは変わらず、日本株のアクティブファンドは仮説のお試しみたいな位置づけ。
これまでの経緯
2019年4月に日本株のETF/投信は全部売ってしまって、そのときのことを「日本株やめた」という記事に書いた。
簡単にまとめると、日銀は「リスクプレミアムを低下させる」と宣言してそのためにたくさんの日本株ETFを買っていたのだけど、リスクプレミアムを低下させるというのは定義として「株価を割高にして、期待される利回りを低下させる」ことの言い換えなので、日銀がETFを買い続けている間はまだしも、いずれ買い控えるようになれば日本株には低利回りだけが残るということになる。
その後、2021年3月に日銀はETF購入の方針を見直し、年間6兆円の買い入れ目標を削除した。日銀としては、あくまで柔軟で機動的な対応のためであってETFの買い控えや引き締めではない、との説明ではあったが、実態としてその後の日銀ETF買い入れ頻度は大幅に低下した。
答え合わせは5年後なり10年後なりにしようと思うけど、いまのところは懸念した通りの流れになっているように見える。
なぜ日本株アクティブファンドか
日本株を懸念しているにもかかわらず日本株のアクティブファンドを買ったのには、3つの理由がある。
1. 日本に拠点を移し、日本円で生活するようになったから
2. 日本株インデックスは日銀が割高にしてしまったから
3. インデックス投資が流行り過ぎているから
それぞれ解説していく。
1. 日本に拠点を移し、日本円で生活するようになったから
イギリスでの仕事が終わって日本に拠点が移ったので、今後は日本円で生活するようになる。海外株は為替リスクというリターンを生まない余計なリスクがあり、できれば日本株アセットも持っておきたかった。
2. 日本株インデックスは日銀が割高にしてしまったから
上で書いた通り、日本株インデックスは日銀が「割高にする」という明確な政策目標を持って割高にしてしまった。そして明確には宣言していないものの、実態として日銀は2021年からETF購入を縮小しており、日本株インデックスには低利回りだけが残った。
今後どうなるかはわからないが、どうせ日本株をやるならインデックス以外のところにチャンスがあるかも知れないと思った。
3. インデックス投資が流行り過ぎているから
これは重要なポイントであり、冒頭で「仮説のお試し」と書いたまさに試したかった仮説そのものであるので、少し丁寧に解説する。
かつてインデックス投資といえば、一部の個人投資家の間で流行っている賢い投資手法という感じだった。しかしその後、投資家ブロガーやマネーリテラシー系YouTuberによる啓蒙に加えて、日銀のETF大量購入、年金資金の株式シフト、金融庁の(つみたてNISA制度を通じた)半強制的なインデックス投資推進などを経て、すっかりメインストリームになってしまった。
なってしまったと書いたのは、インデックス投資というのはあくまで市場の効率性にフリーライドする投資手法であって、本来メインストリームになるような投資方法ではないと考えているからだ。
インデックス投資がアクティブ投資に勝るといわれているのは、市場は十分に効率的であり、アクティブ投資家が(そのコストに見合うだけの)継続的な利益を上げられるほどの市場の歪みは存在しないという前提があるからだ。
しかしインデックス投資そのものは個別企業の業績や経済環境に関わらずまとめてバイ&ホールドするという手法なので、実は市場を歪めている。インデックス投資家はアクティブ投資家が提供した市場の効率性にフリーライドしており、インデックス投資家自身は市場の効率性を損ねる側である。
インデックス投資がマイナーな手法であるうちはそれでもよかった。アクティブ投資資金の大海の中に一滴のインデックス投資が混じったところで市場環境への影響は事実上ゼロであり、安心して市場の効率性にフリーライドできた。
しかしインデックス投資がこれほどメインストリームになってしまったら、インデックス投資家(日銀や年金資金を含む)が生み出した市場の歪みを利用して勝つアクティブ投資家が出てきても不思議ではない。これが、今回試してみたかった仮説だ。
そういえば
そういえば、アクティブ投資を試すといっても、自分で個別株をやるという方法もあるし、アクティブファンドだって無数にある。
まず個別株については、自分には他の市場参加者に勝てるような知識も時間もないので、ナシということにした。
他のアクティブファンドについては正直そこまでちゃんと比較していないのだけど、テーマ系ファンドは今回の仮説検証の目的とは整合しないので、テーマ系以外で(つまり市場平均に勝つこと自体を目的にしていて)、実績があって有名で、手数料もそこまで高くない、くらいの感じでひふみプラスにしました。ごめんね。
というわけで
というわけで、今回の仮説があっているかどうかは正直わからないが、後で答え合わせができるように10月29日時点の終値をメモしておく。
・日経平均:28,892.69
・TOPIX:2,001.18
・ひふみプラス:52,726
長期インデックス投資は本当に安全か検証(モンテカルロ法)
要点
ランダムウォークを仮定してヒストリカルデータによるモンテカルロシミュレーションをしてみることで、インデックス投資の神話「20年を超えるような長期投資(あるいは長期の積立投資)であればトータルリターンがマイナスになることはない」が正しくないことを確認していきます。
目次
1. インデックス投資の神話
インデックス投資の神話のひとつに、20年を超えるような長期投資(あるいは長期の積立投資)であればトータルリターンがマイナスになることはない、というものがある。この神話に従えば、老後に必要となる生活資金を長期のインデックス投資で準備することは、安全で賢い方法だということになる。
だがもしこの神話が誤りであり、長期のインデックス投資であってもマイナスリターンとなる現実的なリスクがあるのであれば、老後の必要生活資金といったシリアスな資金を投資に振り向けることはとんでもないことだ、ということになる。
長期のインデックス投資は、老後資金不足の処方箋になるのだろうか。あるいは、投資は危険だから余裕資金の範囲で行うべきであり、そもそも老後資金の確保に困っているような人間が手を出してはいけないのだろうか。
今回はこれを検証していく。
2. ヒストリカルデータによるモンテカルロ法
前回の記事「ドルコスト平均法の効果検証(モンテカルロ法)」では、正規分布乱数を使ったモンテカルロシミュレーションを行った。しかし正規分布は市場リスクの近似として正確とはいえない。
前回はあくまで「複数の投資手法の相対的なリスク・リターン比較」という主旨だったために簡便な方法として正規分布乱数を使ったが、今回のように将来の投資リスク・リターンを評価するためには、正規分布乱数では心許ない。
そこで今回は、実際のヒストリカルデータを使ってモンテカルロシミュレーションをしていく。
2.1 ヒストリカルデータの収集
株価のヒストリカルデータを収集する前に、まずは日本のインフレ率の推移を取得する。将来の株価が倍になったとしても、物価も同様に倍になれば購買力が増加したことにはならないから、実質的な収益をシミュレーションするために株価のヒストリカルデータをインフレ率で割り引く必要がある。
インフレ率の計算にはいくつか方法があるが、今回は消費者物価指数(CPI)総合値の増減率をインフレ率とする。これは統計局のウェブサイトからダウンロードできる。
株価については、日本のTOPIX、米国のS&P500、先進国株(日本を除く)のMSCI KOKUSAIインデックスの3つを検証の対象とする。それぞれのインデックスは配当込みの値を利用する。また、日本を生活基盤にする人が投資することを想定し、すべて円換算で計算する。
円換算についての注意点として、1973年2月にドル円レートが固定相場制から変動相場制に移行したため、データの連続性を考慮しヒストリカルデータの起点は1974年とする。
ヒストリカルデータの要件が決まったので、前回同様、myINDEX( https://myindex.jp/ )から必要な年次データを利用させていただく。配当込み、円換算のヒストリカルデータが参照できる神サイトなので楽ちんだ。
『TOPIX トピックス (配当込み) インデックス』 |株価指数
『S&P 500 (配当込み) (円) インデックス』 |株価指数
『MSCI コクサイ・インデックス (KOKUSAI) (円)』 |株価指数
暦年の騰落率は、それぞれのページの「年次リターン」のタブで確認できる。
表示上はグラフ形式だが、HTMLソースには暦年の騰落率がベタで記載されているのでそこから2019年までのヒストリカルデータを取得できる。
前述の通りデータの起点は1974年とするので、2019年までの46年分のデータを利用することになる。2020年のコロナショックがギリギリ含まれていないことに不満を感じる方もいらっしゃるだろうが、その代わりちょうど1974年の第一次オイルショック暴落が含まれているのでチャラということにしたい。
インフレ率の推移、株価のヒストリカルデータのExcelの表に転記し、株価騰落率をインフレ率で割ることで、インフレ調整後の年次株価騰落率を求める。
こんな感じだ。
2.2 シミュレーションの準備
シミュレーションの想定として、毎年「1」の金額を10年かけて積立投資するものとする。「1」は具体的には1万円でも10万円でも100万円でもよい。
一般的には一年に一度だけの購入ではなく毎月積立など分散して投資をすることが多いと思うが、前回の記事「ドルコスト平均法の効果検証(モンテカルロ法)」で確認した通り、毎月積立であっても年間一括投資であっても平均運用残高が同じであればリスク・リターンは変わらないので、この点は問題にならない。
さっそくこんな感じでやってみる。
1年目の年初に「1」の資金を投資し、1年運用した結果たまたま0.93という結果になった。2年目の年初はこの0.93に1を追加投資して合計1.93を運用し、結果的に1.94となった。
運用結果の計算方法についてはランダムウォークを仮定し、前年の騰落率は翌年の騰落率に影響しないとした。そのため、ヒストリカルデータとして取得した46年分の騰落率の中からランダムに1つを選んだものが各年の騰落率になる。
各セルの計算をExcelで表すと「(前年の運用結果+1)*INDEX(ヒストリカルデータ,RANDBETWEEN(1,46))」となる。ヒストリカルデータの配列から、RANDBETWEEN()関数を使ってランダムに1つの騰落率を選択している。なお、今回はTOPIX(配当込み、インフレ調整済み)のヒストリカルデータを使って計算している。
これを30年分計算したときの結果がこちら。
30年かけて合計「30」を投資し、結果として「76.08」を得た。30年トータルのリターン率としては2.54倍(+154%)であった。同様に、10年経過時点のトータルリターンは1.17、20年経過時点では0.99だった。
これは今回の乱数によるたまたまの結果であるので、試行回数を10000回まで増やして、統計的なリスク・リターンを評価する。
シミュレーションができたので、次節から、シミュレーション結果の統計値の評価をおこなう。
2.3 TOPIXの10年、20年、30年投資の評価
TOPIX(配当込み、インフレ調整済み)のヒストリカルデータに基づいてシミュレーションを行った場合の結果がこちら。
10000回試行の平均のトータルリターンは、10年で1.36(プラス36%)、20年で1.84(プラス84%)、30年で2.54(プラス154%)となった。標準偏差に基づくリスク値も計算しているが、それよりも注目したいのは各パーセンタイルでのリターンだ。
例えば10パーセンタイルとは下位10%の位置にあるケースの投資成績で、言い換えると、10人に1人レベルに運の悪い人が得る結果だ。この場合、10年で0.70(マイナス30%)、20年で0.69(マイナス31%)、30年で0.71(マイナス29%)という投資成績だった。
50パーセンタイルはちょうど真ん中の投資成績を得た人の結果で、これはすべてプラスになっている。
つまり、ごく標準的な運の持ち主であれば投資期間が10年であれ20年であれ30年であれ資産を(インフレ調整後でも)しっかり増やせるが、10人に1人レベルに運が悪いと30年の長期積立投資であっても30%前後の資産の目減りを覚悟しなければならない、ということがわかる。
さらに表の一番下の行で、リターンが1.0(プラスマイナスゼロ)になるパーセンタイル順位も求めている。30年積立投資でプラスマイナスゼロになるのはパーセンタイル順位は20.8%で、つまり、5人に1人は30年間積立投資をしてもインフレ調整後のトータルリターンがマイナスになる。
なお、リターンが1.0になるパーセンタイル順位はExcelで「PERCENTRANK.INC(リターンの配列,1.0)」で求められる。
2.4 S&P500の10年、20年、30年投資の評価
同様にS&P500(円換算、配当込み、インフレ調整済み)のヒストリカルデータに基づいてシミュレーションを行う。
参照するヒストリカルデータの配列が異なるだけで計算の方法は全く一緒であるので、結果となる統計値だけを掲載する。
円換算、インフレ調整済みであるにも関わらず、平均リターンを見るとTOPIXよりずいぶん良い。インデックス投資家がS&P500に賭けたくなるのもうなずける。
また10パーセンタイルでのリターンを見ると、10年、20年では1未満(マイナスリターン)であるものの、30年ではかろうじてプラスとなっている。10人に1人レベルの運の悪い人でも、S&P500に30年投資を続ければプラスリターンが期待できそうだ。
収益率1.0となるパーセンタイル順位を見ると、10年では18.2%、20年では10.8%、30年では7.2%となっている。つまり20年投資を続けても10人に1人レベルに運の悪い人はマイナスリターンになり得るが、30年投資をしてマイナスになるのは約14人に1人レベルに運の悪い人だけ、ということになる。
2.5 先進国株(日本を除く)の10年、20年、30年投資の評価
続いて、日本を除いた先進国株のインデックスであるMSCI KOKUSAI(円換算、配当込み、インフレ調整済み)のヒストリカルデータに基づいてシミュレーションを行う。
前節同様、結果となる統計値だけを掲載する。
リターンは、S&P500より落ちるがTOPIXよりは良い、という感じだ。収益がマイナスになる目安である収益率1.0のパーセンタイル順位は、10年で18.8%、20年で13.1%、30年で8.9%だった。約11人に1人レベルで運が悪いと30年積立投資しても実質マイナスになる、ということだ。
2.6 先進国株(日本を含む)の10年、20年、30年投資の評価
ついでに、TOPIXが20%、MSCI KOKUSAIが80%の合成指数を作ってシミュレーションしてみる(いずれも円換算、配当込み、インフレ調整済み)。こんな感じで、日本株と海外株に分散して投資してる人も多いのではないか。
前節同様、結果となる統計値だけを掲載する。
リターンの低いTOPIXを組み入れたため平均リターンはやや減っているが、マイナスリターンとなる目安である収益率1.0のパーセンタイル順位について20年と30年のケースを見ると、TOPIX単体とMSCI KOKUSAI単体のどちらのケースよりも低い。
これが分散効果か。インデックス投資の入門書に書いてあることは嘘じゃなかった。ありがとうインデックス投資の入門書。
しかしそれでも30年で7.8%、約13人に1人レベルで運が悪いとマイナスリターンとなってしまう。あとS&P500の収益率1.0のパーセンタイル順位は30年で7.2%だったので、S&P単体のほうがよい。分散効果とはいったい何だったのか……。
3. 結論
- 投資期間を長くすれば長くするほど、運用成績がマイナスになる確率は減る。その意味において、長期投資ほど低リスクというのは間違いではない。(なお金融用語としてのリスク、すなわち標準偏差は投資期間が長いほど大きくなるが、多くの個人にとって関心があるのは標準偏差よりも資産減のリスクだろう。)
- しかし30年という長期積立投資においてさえ、TOPIX投資であれば約20%、S&P500や分散投資をうまく使っても約7-8%の確率でトータルリターンがマイナスになる可能性がある。
- いずれの投資対象においても、下位1パーセンタイルの30年平均リターンは0.35-0.51の間であった。つまり、30年の長期積立投資であっても、資産が半減する確率が1パーセント程度はある。
資産減リスクが7-8%、資産半減リスクが1%という数字をどう評価するかは個人の主観や価値観によるが、個人的には、それが無いと人生が詰むようなシリアスな資産を賭けるにはあまりに高いリスクだと思う。
老後資産の形成についていえば、年金や貯金・退職金などですでに必要最低限の老後資金を確保できている人がより豊かな老後をめざして余裕資金を投資するのであればよいが、そもそも最低限の老後資金が確保できていない人が不足分を補うために投資に手を出すことは全く推奨できない。
個人的な基準でいえば、まずはライフプランを作成してみて、「投資した資金が最悪半減したとしても、将来のライフプランに致命的な影響はでない」といえる範囲を投資余力として投資に充てるのがよいと考えている。
繰り返しになるがリスクの取り方は個人の主観・価値観による部分も大きいので、上記の基準は一例である。しかし一部で言われているような「インデックス投資は長期的にはほぼ必ずプラスになるから、リスクは気にしなくて良い」といった神話は誤っており、注意が必要である。
ドルコスト平均法の効果検証(モンテカルロ法)
要点
ドルコスト平均法は忘れていいよ、ということをモンテカルロシミュレーションをしながら確認していきます。
目次
1. ドルコスト平均法の論点
投資、特に個人の資産運用の話題になると、ドルコスト平均法を推奨する人と、ドルコスト平均法には効果がない、という人に大きく分かれる。
ここでドルコスト平均法とは、一度に多くの金額を一括投資するのではなく、例えば毎月の積立投資のように時間をかけて少額を何度も投資することで、投資の時間分散によるリスクの低減効果を狙う投資法のことだ。
(追記:時間分散において固定口数にするか固定金額にするか、という論点について指摘をいただいたので、6節にその視点での検証を追加している)
ドルコスト平均法に効果があるかないか、という論点は、このリスクの低減効果が実在するのかどうか、と言い換えることができる。
なお、リスクの低減効果とは別の理由で積立投資を選択する場合もある。例えば毎月決まった給与をもらうサラリーマンが、その手取りの中から投資資金を捻出する場合、給料日に合わせて毎月積立投資をすることは(仮にリスクの低減効果が幻であったとしても)依然として合理的だ。
だから、ドルコスト平均法の効果を否定することは、積立投資を否定することではない。単に、積立投資を選択する理由としてドルコスト平均法を根拠にすることはできない、時間分散によるリスク低減効果は存在しない、ということを示すだけである。
2. ドルコスト平均法に効果がない理由
ドルコスト平均法にリスク低減効果はない、という主張の論拠は明白だ。いまあなたの口座に100万円分のリスク資産残高があるなら、それが昨日一括で投資した100万円であれ、何年もかけてこつこつ積み立てた100万円であれ、「現時点で100万円をリスクにさらしている」という事実は全く変わらないからだ。
この論点については投資評論家の山崎元さんの説明が詳しい。
しかし一方で、投資タイミングを時間分散すれば取得単価を平均化できて結果的にリスクが低減する、という説明は直感に訴えかけるので、依然としてドルコスト平均法は人気のある考え方である。
3. ドルコスト平均法のモンテカルロシミュレーション
そこでExcelを使って実際にシミュレーション比較をしてみる。
まずは、想定する平均リターンとリスク(標準偏差)を決める。あくまで一括投資と積立投資の相対比較であるので具体的なリスク・リターンは何でもよいといえばよいが、ここでは、myINDEX(https://myindex.jp/)というサイトの「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス (ACWI) (円)」30年平均年率のリスク・リターンを使わせていただいた。
https://myindex.jp/data_i.php?q=MS1025JPY
毎月積立でシミュレーションするので、年率のリスクリターンを月あたりに換算する必要がある。月あたりリターンは年率リターンの12乗根(Excelでは「POWER(年率リターン,1/12)」)、月あたりリスクは年率リスクに√12の逆数をかける(「年率リスク*SQRT(1/12)」)ことでそれぞれ計算できる。こんな感じだ。
(次節以降、Excelを使ってシミュレーションしつつ、考え方と実際の数式も掲載しておくので、間違いなどあったら指摘いただけると助かります。)
3.1. 毎月積立のシミュレーション
毎月積立のシナリオとして、毎月決まった額を積み立て投資するものとして、この金額を「1」とおく。「1」は具体的には1000円でも1万円でも10万円でもよい。月初に「1」を投資し、1ヶ月のあいだ上述の月間リスク・リターンに沿って運用し、次月の月初に「1」を追加投資する。
Excel上で表現するとこんな感じになる。
1ヶ月目に「1」を投資し、これを上記の「月次リターン1.0051(月利0.51%)」「月次リスク0.0517(5.17%)」の条件で運用した結果、「0.99」という結果になった。想定リターンがプラスであるにもかかわらずちょっと損しているが、これはリスクがあるため今回はたまたまこういう結果になったということだ。
2ヶ月目はこの「0.99」に「1」を追加投資した合計「1.99」を同条件で運用し、たまたま「1.97」という結果を得た。同様に3ヶ月目、4ヶ月目と積立投資を続けていき、4ヶ月目に「4.02」となって総投資額の「4」を超えてプラスリターンとなった。
各月の運用をExcelの式で表すと「(前月残高+1)*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。NORM.INV()関数を使って、月次リターンを平均、月次リスクを標準偏差とする正規分布乱数を生成し、それを前月残高+1(+1は今月の追加投資分)に掛けることでその月の運用結果としている。正規分布は市場リスクの正確な近似とは言えないが、今回は積立投資と一括投資の相対比較という目的に鑑み簡単化のために正規分布を使った。
この積立運用を240ヶ月(20年間)続けた結果例がこちら。
240ヶ月かけて合計「240」を投資して、「1009.32」のリターンを得た。総リターンは4.21倍(+321%)であった。
このリターンは今回の乱数におけるたまたまの結果であるので、平均的なリターンやリスク(リターンの標準偏差)を求めるためには、試行回数を増やす必要がある。
こんな感じだ。
余談だが、上の表の通り、240ヶ月(20年間)の積立運用でも総リターンが1.0未満(すなわちマイナスリターン)になることはそこそこある。「投資は余裕資金で」という標語はダテではない。たとえ長期積立投資であっても、将来必要となることがわかっている資金を投資にぶち込むのはまったく推奨できない。が、この話は今回の目的と関係ないし、今回はあくまで正規分布で簡単化したシミュレーションであるので、この話題は深入りしないことにする。
本題に戻って、上記の方法で試行回数を10000回まで増やしたときの結果がこちらだ。
総リターン平均の1.96が今回のシミュレーションにおける平均リターン、総リターン標準偏差の1.17がリスクということになる(標準偏差はSTDEV.P()関数を使って求めている)。
また参考までに、上の表では下位何パーセンタイルでどのくらいのリターン値になるかについても求めてあるが、今回の話の目的とは直接関係ないのでいったん無視してよい。
ちなみになぜ10000回かと言うと、1000回では結果が安定せず再計算のたびに結果にブレが出てしまい、10000回ならおおむね総リターン平均が±0.02くらいのブレに収まっているように見えた、という割とざっくりした決め方である。
なお、この240ヶ月×10000回の計算でもExcelのファイルサイズが50MB近くになってしまったので、これ以上の試行回数を求めるのであれば、Excel以外の統計ツールやプログラム言語などを使った方がいいかも知れない。Excelは計算のステップごとにセルを分けて計算の途中経過を確認したり、その途中経過に対して検算をしたりすることが容易なので好きなのだが、限度というものがあるようだ。
3.2. 各年初に一括投資のパターン
さて比較の準備が整ったので、次に毎年年初に一年分「12」の投資を一括で行うパターンを考える。
各セルの数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=1,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。毎月積立と変わった部分は赤字のところで、経過月を12で割った余りが1(つまり各年の初月)の場合に一括で「12」を投資し、それ以外の月は追加投資しないという想定だ。
シミュレーションの様子がこちら。経過月が1、13、と、12ヶ月おきに投資額が一気に「12」ずつ増えている。
シミュレーション結果がこちら。
リスク(標準偏差)が1.21になっており、毎月積立のリスク1.17よりも高い。やはりドルコスト平均法にはリスク低減効果が…?と思ってしまいそうだが、これは年初に一括投資することで年間の平均運用残高が高くなった結果であり、その証拠に平均リターンも毎月積立の1.96から2.01に上がっている。
この理屈は年末一括投資というパターンを考えてみればわかりやすいので、次節で確かめる。
3.3. 各年末に一括投資のパターン
同じ一括投資でも年初ではなく年末にまとめて投資すれば、年間の平均運用残高は毎月積立よりも少なくなる。だから前節で見られたリスク低減効果が単に平均運用残高の違いによるものであれば、年末一括投資は毎月積立よりも低リスク・低リターンになるはずである。一方、前節のリスク低減効果がドルコスト平均法による時間分散由来であったとすれば、年末一括投資であっても一括投資である以上は毎月積立より高リスクになるはずだ。
年末一括投資の数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=0,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」とする。12で割った余りが0、つまり毎年の最終月に一括投資するのが前節との違いだ。
シミュレーションの様子がこちら。
最初の11ヶ月の運用残高が「0」なのでギョッとしてしまうが、ちゃんと12ヶ月ごとに「12」ずつ投資しているので安心して欲しい。
シミュレーション結果がこちら。
トータルリターンは1.91(毎月積立1.96)、リスクは1.08(毎月積立1.17)となり、予想通り、毎月積立よりも低リスク・低リターンとなった。つまり、毎月積立であれ一括投資であれ、投資を先送りにして平均運用残高を減らせばその分リスクを(ついでにリターンも)減らすことができるが、それはドルコスト平均法が言うような時間分散効果とは関係ない、ということがわかる。
3.4. 6月に一括投資のパターン
前節までの結果で、ドルコスト平均法によるリスク低減効果はないことが示せたと思うが、ダメ押しとして6月に一括投資するパターンも試してみる。年初でも年末でもなく6月に一括投資すれば、年間の平均運用残高が毎月積立と近い値になるためだ。
6月一括投資の数式は「(前月残高+IF(MOD(経過月,12)=6,12,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」とする。
シミュレーションの様子がこちら。
シミュレーション結果がこちら。
トータルリターンは1.96(毎月積立1.96)、リスクは1.16(毎月積立1.17)となり、予想通り、毎月積立とほぼ同水準となった。ちなみに各パーセンタイル値もほぼ同水準だ。
3.5. 20年分を一括投資するパターン
前節までは、1年分をまとめて投資するパターンを毎月積立のパターンと比較していた。ここであえて話を極端にして、20年分の投資「240」を一括で投資するパターンを確認する。
20年分一括投資の場合、全体の平均運用残高を毎月積立と一致させるために、投資タイミングをどこにするかを検討する必要がある。単純に240ヶ月の真ん中の120ヶ月目を選んでしまうと、途中の運用益の影響で平均運用残高が毎月積立と異なってしまう。何パターンか試したところ、108ヶ月目に20年分を一括投資、という想定であれば、全期間での平均運用残高が毎月積立のパターンとおおむね一致することがわかった。
いちおうExcelの数式で表すと「(前月残高+IF(MOD(経過月,240)=108,240,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。
シミュレーションの様子は割愛して(どうせ最初の107ヶ月はずっと運用残高ゼロなので)、結果だけ載せる。
トータルリターンは1.97(毎月積立1.96)、リスクは1.28(毎月積立1.17)となった。平均運用残高を合わせただけあってトータルリターンはほぼ一致したが、リスクが……あれっ、明らかに高い。
やっぱり、極端な例も試してみるのは大切である。
3.6. 10年分を一括投資するパターン
すこし極端さを緩和して、10年分の「120」を2回に分けて投資するパターンを考える。
先ほどと同様に、全期間の平均運用残高が毎月積立とおおむね一致するタイミングをさぐっていくと、57ヶ月目とそのちょうど10年後である177ヶ月目の2回にわけて「120」ずつ投資するのがよいということがわかった。
いちおうExcelの数式で表すと「(前月残高+IF(MOD(経過月,120)=57,120,0))*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。
先ほど同様、シミュレーション結果だけを掲載する。
トータルリターンは1.97(毎月積立1.96、20年一括1.97)、リスクは1.20(毎月積立1.17、20年一括1.28)となった。トータルリターンは引き続き一致、リスクについては20年分一括投資よりは明らかに小さいものの、毎月積立よりはやや大きい値になった。
4. ちょっと補足
20年分一括投資の例について補足すると、今回は毎月積立のケースと平均運用残高をそろえるために、107ヶ月までは一切投資せずに待ってから108ヶ月目に一括投資をする、という想定をした。
しかし一般的には、一括投資とは投資期間の最初に一括で投資することを指す。 投資期間の最初に一括で投資した場合、3.2節で見たとおり、平均運用残高が上がることでリスクとリターンの両方が高くなる。
つまり典型的な例においては、一括投資か毎月積立か、という問いは「平均運用残高を上げてより高いリターンをとるか、平均運用残高を下げてリターンを犠牲にする代わりにリスクも下げたいか」という問いと同義である。
20年分一括投資のような極端な例においてさえ、それが投資余力の範囲内なのであれば、最初に一括投資をすることで高い総リターンを狙うということは引き続き合理的な選択であり得る。
5. 結論
- 毎月積立か、それとも一年分をまとめて投資か、というレベルの比較においては、平均運用残高が同じであればリスク・リターンもほぼ同じである。
- よって、「夏ボーナスのうち30万円を投資に回そうと思うが、ドルコスト平均法で3万円ずつ10ヶ月に分けて投資したほうがよいのだろうか」というような悩みであれば、ドルコスト平均法は単なる機会損失であり、機会損失を上回るようなリスク低減効果は全くないので、30万円一括投資すればよい。
- 毎月の給与から投資余力を捻出してるのであれば、(ドルコスト平均法とは全く無関係に)毎月積立が合理的な選択であり得る。でもボーナスが余った分は一括投資しよう。
- 20年分の投資資金を一気に投資する、というような極端な例であれば、数回程度の時間分散を行うことで、機会損失によるリターンの低下分以上にリスク低減効果を得ることはできそうだ。
- しかし極端な例の場合であってさえ、あくまで投資余力の範囲内で投資を行っているのであれば、多少のリスク低減効果よりは機会損失を重視して一括投資を選択することが引き続き合理的であり得る。
総論として、ドルコスト平均法は忘れて良い。そんなことより、あなたの今の運用残高があなたの今の投資余力(リスク許容度)にマッチしているかどうかの方が重要だ。
(おまけ)
そういえば「ドルコスト平均法はリスクだけでなくリターンを改善する効果もある」という説もある(今回はリスクの話だったので完全に無視してしまっていた)。
その根拠は、株価が一度暴落し、その後元の株価に戻った場合(つまり株価チャートが凹の形になると)、一括投資であればプラスマイナスゼロだが、ドルコスト平均法で暴落中も投資していればトータルでプラスリターンになる、というものだ。
ドルコスト平均法にそのような特性があることは事実だが、逆に株価が一度騰がってその後元の株価に戻ると(つまり株価チャートが凸の形になると)、ドルコスト平均法はマイナスリターンになってしまう。
すなわち、チャートが凹になるか凸になるか丁半博打に勝てば儲かる、というだけの話であって、ドルコスト平均法に全体的なリターンを改善する効果がないことはこの記事の3.2~3.4節で見たとおりなので、この説も含めてドルコスト平均法は忘れて良い。
6. 追記(固定口数か固定金額か)
この記事を公開したあと、ツイッターで以下のような指摘をいただいた。
元々は「分散投資を行う場合に、数量を等分割して購入するよりも費用(コスト)を等分割した方が(相加平均より調和平均が小さいという意味で)良い」っていうシンプルな話だったと思うのだが、なぜか分割投資を進める言説に流用されて、改めてそれを否定する流れになってるみたい。難儀だな… https://t.co/M7v8gcTRdU
— nishio hirokazu (@nishio) 2020年8月27日
ドルコスト平均法とは本来、時間分散するときに毎回同じ口数を買うのではなく毎回同じ金額を購入するという手法で、すなわち時間分散するかしないかが問題なのではなく、時間分散は前提としてそれを固定口数にするか固定金額にするかという問題だ、という指摘である。
そして、固定口数だと平均購入単価は相加平均になるのに対し、固定金額だと平均購入単価は調和平均になり、ここで数学的に「相加平均≧調和平均」が証明されているので、固定金額方式であるドルコスト平均法が有利だ、ということのようだ。
たしかに、Wikipediaにもそのような説明が書いてある。(記事を書く前にWikipediaくらいは見ておくんだったと後悔した)
そこで追加の検証として、固定口数で毎月積立を行ったケースと、固定金額(ドルコスト平均)で毎月積立を行ったケースを比較してみた。
6.1 固定口数積立方式
まずは固定口数での毎月積立をシミュレーションしてみる。
毎月の口数を「1」、1口あたりの単価の初期値も「1」として、それぞれの月の1口あたり単価の推移を表に表していく。
それぞれの月に入っている数字(1.04、1.04、1.12、1.11…)は、各月の1口あたり単価である。Excelの数式で表すと「前月単価*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク)」となる。前月の単価に、正規分布乱数によって求めた今月のリターンを掛けている。これを240ヶ月分並べると、1試行のシミュレーションが完成する。
購入数は、固定口数「1」を240ヶ月買うので必ず240になる。平均購入単価はAVERAGE()関数で各月の1口あたり単価を平均するだけである。リターンは、最終単価(240ヶ月目の1口あたり単価)を平均購入単価で割ったものだ。
これを10000回試行して集計した結果がこちら。
6.2 固定金額積立方式
次に、固定金額での毎月積立(ドルコスト平均法)をシミュレーションしてみる。
集計のしやすさを考え、各月の数字(1.01、1.03、0.98、1.04、…)には各月の購入口数を入れてある。Excelの数式では「1/ ( (1/前月の購入口数)*NORM.INV(RAND(),月次リターン,月次リスク) )」となる。まず 「1/前月の購入口数」で前月の購入単価を求め、それに対しておなじみの正規分布乱数をかけて今月の購入単価を算出し、さらに今月の購入単価の逆数をとることで今月の購入口数を求めている。これを240ヶ月分並べてある。
ここで購入数は、各月の購入口数の総和で簡単に求まる。平均購入単価は「総購入額÷購入数」で求まるが、毎月固定金額「1」での積み立てであるので総購入額は240固定で、それを先ほど求めた購入数で割ればよい。リターンは前節同様、最終単価(240ヶ月目の単価)を平均購入単価で割ったものだ。なお前節とは異なり、各月のセルには単価ではなく購入口数が入っているので、逆数をとって購入口数から単価になおしておくことを忘れないようにする。
これを10000回試行して集計した結果がこちら。
平均購入単価が1.58(固定口数1.98)と大きく下がっており、それにより平均リターンも1.97(固定口数1.56)と大きく改善している。しかしそれにともなって標準偏差(リスク)が1.15(固定口数0.63)と大きく上がってしまっている。
6.3 固定口数vs固定金額の結論
「相加平均≧調和平均」という数学的事実が示す通り、同じ時間分散投資をするのであれば、固定金額方式(ドルコスト平均法)は固定口数方式よりもリターンが高いということがわかった。
しかし固定金額方式は固定口数方式よりも大幅にリスクが高く、決してリスク中立で純粋にリターンだけを改善できるというわけではない(フリーランチではない)という点に注意が必要である。
そもそも固定口数での毎月積立なんて酔狂なことをする人はあまりいないだろうが、「ドルコスト平均法は固定口数による積み立てよりも高リスク・高リターンの投資方法である(あるいは、固定口数方式は相対的に低リスク・低リターンである)」という事実は押さえておいてもよいだろう。
6.4 ほんとうにそうだろうか(追記の追記)
と前節までを考えたところで記事を更新したのだが、一度立ち止まって考えてみると、おかしな点に気がついた。
「相加平均≧調和平均」という数学的事実が示しているのは、値動きと購入タイミングが同じである限り、あらゆるケースで固定金額方式が固定口数方式のリターンを上回る、ということだ。なのに「フリーランチではない」なんてことがあり得るだろうか?
もう少し丁寧に検証するため、固定口数方式と固定金額方式の値動きを共通化してみる。つまり、それぞれ個別の乱数を用いるのではなく、固定口数方式のシナリオで計算した各月ごとの1口当たり単価をもとに、固定金額方式のシナリオにおける各月ごとの購入口数を計算するようにした。
さらに、総投資額を合わせるようにした。資産価格は時間の経過とともに平均的には上がるため、毎月かならず1口を購入する固定口数方式は、固定金額方式よりも総投資額が平均的に高くなるという違いがあった。
調整前の総投資額(平均)の差異がこちら。
固定金額方式は、毎月「1」の金額を240ヶ月投資するので、総投資額は必ず240になる。固定口数方式は乱数によって総投資額が変わるが、10000回試行で平均すると468程度になっていた。
そこで総投資額を合わせるため、固定金額方式の1ヶ月あたりの投資額を「1」から「1.95」に増加させた。
固定金額方式の総投資額が468になった。数字を変えたので乱数が再計算されてしまい、関係のないセルも微妙に数字が変わっているが、気にしないで欲しい。
総投資額の水準をそろえたところで、実際にリターン比較をしてみる。
固定口数方式と固定金額方式のそれぞれについてリターン(比率)と利益の絶対額を算出し、どちらが勝っているかを比較している。これまでの節ではすべて比率での比較であったが、上述の通り総投資額をそろえたことで、絶対額での比較も可能になっている。
なお検算のために記しておくと、利益の絶対額の計算方法は「購入口数*平均単価*(リターン-1)」となっている。
これを10000試行分計算し、シミュレーションの結果を確認する。
まずはリターンの比較である。Excelのオートフィルタ機能を使えば、10000試行のうち、固定口数有利となるようなケースが存在したのか簡単に見ることができる。
ない。
「相加平均≧調和平均」の数学的事実が示す通り、値動きと購入タイミングが同じであれば、固定口数方式のリターンが固定金額方式(ドルコスト平均法)を上回ることは絶対にない。
では利益の絶対額はどうか。
あるじゃん。
リターン(投資収益率)では100%かならず絶対例外なく固定金額方式が勝つのに、利益額で比べると固定口数が勝つケースがあるのだ。
どういうことか。オートフィルタを使ってそのまま該当する試行結果を見てみる。(オートフィルタは便利だ)
10000試行中、利益額で固定口数が勝ったケースは1727件ある。
代表して、最初の何件かを見てみる。
確かに、リターンでは固定金額が勝っているのに、利益額では固定口数が勝っている。また、例外はあるが、マイナスリターンのケースや、プラスリターンの場合は平均的なリターンを上回るようなケースが多く含まれていることも見て取れる。
考えてみると、資産価格が右肩下がりになっていくようなケースでは、固定口数方式は結果的に毎月の投資金額を下げていくことになるが、固定金額方式では決まった金額を突っ込んでいくので金額的な深手は大きくなるようだ。
また逆に、資産価格が右肩上がりになっていくケースでも、固定口数方式は結果的に毎月の投資金額が上がっていくので金額ベースでの利益も大きくなっていくが、固定金額方式では決まった金額しか投資しないためそのような効果は発生しない。
これらの特性が、金額ベースで固定口数方式が有利になるケースがある理由ではないだろうか。
6.5 追記の追記のまとめ
「相加平均≧調和平均」の数学的事実が示す通り、固定金額方式(ドルコスト平均法)の積立投資は、固定口数方式の積立方式と比べてリターン(総投資額に対する収益率)が悪くなることは絶対にない。
リターンの標準偏差(リスク)を比較すると、固定金額方式のほうが固定口数方式よりも大きい。固定金額方式は絶対にリターンで負けないのにリターンの標準偏差は高い、ということはつまりリターンの上振れが大きいということなので、この点はあまり気にする必要はないのではないか。
しかし、総投資額の水準が同程度になるように調整したうえで利益の絶対額を比較すると、固定口数方式が固定金額方式の結果を上回るケースが出てくる。つまり「ドルコスト平均法がリターン(収益率)では勝っているのに、実際の利益では負けている」というケースが存在する。この現象は1727/10000=17.3%程度の確率で起こる。
パソコン組み立てた
2年ほどLenovoのThinkCentreというオールインワンタイプのPCを使っていて、主に写真管理用途だしオールインワンタイプで十分だろうという胸算用で買ったものだったけど、写真が十万枚クラスになってくると、サムネイルを一覧表示するだけで数十秒単位の待ちが発生したりして、やはりこれでは厳しくなってきた。
明らかなボトルネックはHDDだったので、まずはこれをSSDに換装してみると、確かに写真ライブラリの読み込み速度が圧倒的に早くはなった。が、ストレージが早くなると今度はCPU(モバイルタイプのCore i5)が足を引っ張るようになってしまい、これはオールインワンタイプのPCではもうどうしようもないので、PCを新調することにした。
最初はメーカー品のPCを考えていたけど、オフィス向けモデルはCPUやグラフィックが弱く、ゲーミングモデルはストレージが弱かったりして、メーカー品を自分の用途に合わせてあれこれカスタムするくらいなら、最初から必要なスペックのパーツで組んだ方がだいぶ安上がりになりそうだったので、たぶん二十年ぶりくらいにPC自作した。
というわけで、せっかくなのでちまたで評判のいい第三世代Ryzenの3700Xと、PCIe Gen4に対応したX570チップセットのマザーボード、そして5GB/sクラスの読み込み速度を誇るPCIe Gen4のNVMe SSD(ただし値段が高いので、写真データ本体はThinkCentreから移設したSATA SSDに入れて、このNVMe SSDにはLightroom Classicのライブラリファイルを置くようにした)といった構成にした。
組み立てた当初、電源は入るがBIOSが表示されず画面が真っ暗で、かなり焦った。ThinkCentreをモニターモードにしてDisplayPortケーブルで新PCにつなぐという構成だったが、ThinkCentreをモニター代わりにしたのも初めてなら、DisplayPortケーブルを使うのも初めてで、どこから切り分けしてよいかわからず途方に暮れてしまった。
たまたまHDMIがあったので、HDMIケーブルでTVにつないでみたら無事BIOSが表示され、Windows 10のインストールをすることができた。Windowsさえ起動してしまえば、あとはDisplayPortケーブル経由でThinkCentreのモニターにつないでもちゃんと表示されたので、BIOSとDisplayPortの組み合わせのときだけ起こる問題のようだ。
今回はたまたま何とかなったけど、トラブル時の切り分けを考えたら、自作PCをやるならマザボやグラボは複数持っておいた方がいいなと思った。動くとわかってる既存の予備パーツがあれば新規パーツのうちどれが初期不良なのか切り分けしやすいけど、今回のように、1台目のデスクトップPCなのに適当にAmazonやらeBayやらでパーツを買い集めたのは今思えばかなりリスキーだった。
ともかく、運良くそれ以外のトラブルはなく、無事にWindowsが動いた。結果、Lightroom ClassicでもWindowsの標準フォトアプリでも、十万枚クラスの写真がサクサク表示されるようになってうれしい。
あと、せっかくなのでグラボもGeForce RTX 2070無印のやつにして、ある程度ゲームもできるようにして、人生初のSteamアカウントも作ってしまった。やったね。
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日本株やめた
2019年4月17日に、日本の401k口座とイギリスのISA口座にあった日本株インデックスファンドと日本株ETFを解約して外国株に切り替えた。
たいした金額ではないけど、のちのちの参照のために記録しておく。
そもそものセオリー的な話では、株の期待リターンはリスクに応じたリスクプレミアムによって決まるので、日本経済の成長が見込めないから日本株はダメだとか、新興国は成長が見込めるから新興国株がよいとかいうことにはならない。そういった経済成長の見込み等は折り込んだ上で市場リスクのリスクプレミアムを反映した株価が形成されるので、日本株と外国株との間に基本的な有利不利はない、ということになっている。
むしろ、新興国やその他外国株は為替リスクという余計なリスクがあり、また取引コストも高い傾向にあるので、その分を考えると(日本で取引する場合には)日本株の方が有利というのがセオリーだという認識だった。
ということで、それ以上のことはよく考えずに、日本株のETFと外国株のETFを併せて分散投資的な感じで積み立てていたのだけど、以下の記事を見てちょっと「あれっ」となった。
日銀が日本株のETFを買ってて、来年末には最大株主になるところまで来ている、という記事。
これまでは、日銀が株を買えば株価が上がるから投資家には得、というくらいの認識だったけど、上の記事を見て、そもそも日銀が株を買うのは何のためなんだっけ、ということで日銀がETF購入を決めた2010年当時の記事を見てみた。
「リスクプレミアム縮小」のためにETF購入を決めたらしい。そして2018年末の記事がこれ。
リスクプレミアムは明確に低下しているらしい。
リスクプレミアムとは、国債などの安全資産に対して株式などのリスク資産に求められる追加の期待リターンのことなので、株式のリスクプレミアムが低下したというのは株式の期待リターンが低下したということと同義だ。
「日銀が株をたくさん買ったら株が割高になったので、そのぶん株の利回りが下がった」と書いてしまえば当たり前のことだけど、同じことでも、リスクプレミアムが低下したと言えば何か日本経済にとって良いことが起きたみたいな感じがするので、というか実際、前述の記事の通り日銀はリスクプレミアムが下がることで日本経済によい影響があることを期待しているので、そういう言い方をしているようだ。
リスクプレミアムが下がる過程、つまり日銀がたくさんETFを買って株価が割高になっていく過程では、すでに株式を持っている投資家は株価が上がることによる値上がり益を享受できる。(債券の世界で、金利が下がれば既発債の値段が上がるのとちょうど同じだ。)でもリスクプレミアムが十分に低下、つまり株価が十分に割高になってしまったら、それ以降に株を買った投資家は低いリターンしか享受できない。
今後もリスクプレミアムが縮小し続けると想定するなら日本株に投資し続けてもいいわけだけど、冒頭の「日銀が日本株の最大株主に」の記事を見て、そんな危険を冒す必要もないんじゃないかと考えるようになったので、結局、日本株はいったんやめることにした。
自分の判断が合ってるのかは正直わからないが、何年かあとに見返すための記録として。
2019年4月17日の終値
112.05円/米ドル
146.15円/英ポンド
日経平均 - 22,277.97
TOPIX - 1,630.68
S&P 500 - 2,900.45
英 FTSE 250 - 19,858.13
Thameslinkの電車遅延の払い戻しを申し込んだ
週末に行ったケンブリッジ、行きの電車がtrespass incidentとやらで30分くらい到着が遅れたということがあった。trespassを辞書で調べたら不法侵入とのことなので、いわゆる線路内人立ち入りみたいな事案なんだろうか。
ともかく、電車を降りるときに車掌さんが、15分以上の遅れは運賃払い戻しがあるからチケットはとっておいて後でオンラインで手続きしてね、というようなことを案内していたので、実際に今日払い戻し手続きをしてみた。
National RailのチケットなのでNational RailのWebサイトで払い戻し(Compensation for Delays)について探すと、National Railではなく実際の運行会社のサイトで払い戻し手続きが必要とのことで、各運行会社の払い戻しページへのリンクが置いてあった。
運行会社はThameslinkだったので、リンクをたどってThameslinkの払い戻し専用ページで個人情報、チケット情報と乗った電車の時刻、そしてチケットの写真などをアップロードし、払い戻し方法を指定すると手続きが完了した。
払い戻し方法は銀行振込のほか、PayPalやAmazonアカウントの残高として受け取る方法などが選べるなど、無駄に充実していてウケてしまった。
手続きには最大20営業日かかるということなので、気長に待つことにする。